平成21年7月3日
三段目33枚目まで躍進した朝弁慶、名古屋入りしてからの稽古でも三段目、幕下の兄弟子の胸を借りて稽古を重ね、すこしずつめも出るようになって、力がついてきたなぁと思わせるここ数日の稽古であった。ところが、昨晩日常のふとした動きで元々何度か痛めたことのある膝を痛め、今日は稽古をできなくなってしまった。もともと膝が内側に入るクセがあって、シコのときに注意するのだが、体にしみついたクセだけに中々直らない。今回の膝の痛みを直すきっかけにできればいいのだが。
平成21年7月5日
毎年恒例となっている宿舎龍照院境内でのちゃんこ会。地元蟹江のみなさんにもすっかりおなじみとなり楽しみにしているようで、部屋やお寺にも「今年はいつですか?」との問合せも多い。蟹江町長や親方の挨拶のあと力士紹介を行いちゃんこを配るが、長蛇の列で大鍋500人分のちゃんこがまたたく間に空。夕方も地元のマンション棟の夏祭りに参加して、ちゃんことちびっこ相撲。イスに座った朝弁慶の周りには4,5歳児がペットかぬいぐるみにでも触れるようにまとわりついて離れない。初日まで1週間、地方場所ならではの一日。
平成21年7月7日
地方場所へ来ると、幼稚園や老人ホーム、病院や施設などの慰問に行く機会は多い。幼稚園児も大きいおすもうさんを見たり触れたりすると大はしゃぎだが、お年寄りは握手をしてまわったりすると目に涙を浮かべて喜んでくれる方も多い。病院関係者も力士が来たときが一番喜ぶという。ちょん髷や浴衣姿の珍しさもあるのだろうが、鍛えこんだ体や握手した手の厚み、力強さに元気をもらうということもあるであろう。また何百年という伝統を、日本文化を、力士の後ろに感じている方もおられるかもしれない。力士は、それだけの存在であることを肝に銘じて稽古に打ち込まなければならない。
平成21年7月9日
場所前恒例の高砂部屋激励会がウエスティンナゴヤキャッスルホテルにて行われる。河村たかし名古屋市長や歌手の金井克子さんも顔を見せ宴を盛り上げる。午後はCBCホールにて前夜祭。明日、取組編成会議が行われ、明後日が土俵祭り。土俵祭は一般にも公開されているようである。土俵祭のあと触れ太鼓が街へ部屋へとくりだし、初日を迎える。
平成21年7月10日
取組編成会議。初日と2日目の取組が決まる。横綱の初日は旭天鵬、2日目は阿覧。注目の日馬富士の初日は稀勢の里と好取組。と、新聞紙上で見たが実際に割り紙(取組表)が部屋に届くのは明日の触れ太鼓のときなので、幕下以下の力士はまだ対戦相手がわからない。引退して2年近く、場所前の緊張感からもすっかり遠のいてしまったが、割り(取組表)という言葉を聞くと、場所直前の緊張感が少しよみがえってくる。
平成21年7月12日
先場所の大勝ちで自己最高位を一気に50枚以上更新して三段目33枚目となった朝弁慶。相撲をとる時間も今までよりかなり遅くなり、支度部屋での景色もかなり違ったものに見えるらしい。まわりで四股を踏んでいる力士の体や筋肉、四股の踏み方、いかにも強そうだったという。いわば安いアパートから家賃の高いマンションに引っ越したようなものである。相撲も中に入られて寄り倒され肩を強打してと前途多難の初日。やっぱり家賃が高かったとなるか、住みつづけられるか、新しい景色に早く慣れてしまうしかない。
平成21年7月13日
今年1月場所入門の朝日向。初めて番付に名前がのった3月場所は場所前に蜂窩織炎で入院して途中からの出場、5月場所も内臓検査で入院して最後の1番だけ出場と、まだ7日間相撲を取りきったことがない。3場所目となるこの7月場所、ようやく叶った初日からの出場を白星で飾った。今場所から師匠の付人として審判部室にも初出勤。
平成21年7月15日
3月場所入門して5月場所序ノ口で4勝3敗と勝ち越した朝興貴、今場所は序二段106枚目まで番付を上げた。まだまだ下半身が固く腰高ではあるが、上半身の力はまあまああるようで序二段でも2連勝のスタート。朝興貴の白星が景気づけとなったか以後横綱まで8連勝。勝星が大きく上回る。
平成21年7月18日
おすもうさんにとって梅雨と暑さが重なる名古屋場所は最も苦手な季節である。苦手な分、体を冷やしすぎたりして体調を崩しやすい。初日の相撲で肩を痛めた朝弁慶、風邪もひいてしまい踏んだり蹴ったりの状態となってしまった。ただ相撲は面白いもので、体調のわるいときには緊張する元気もなく、自然と体が動いてくれることもあり、いい結果につながることもままある。そんなひとつの白星が、自信になり強さになっていくこともある。
平成21年7月19日
人間離れした体重はときに凶器となることがある。序二段で一番の体重の重い(188kg)大子錦、負けたほうが負越しがきまる相撲で相手を押しつぶし、相手は元々痛めていた膝を悪化させ病院送りとなったそう。地方場所に来ると測れる体重計がないので実際の数値はわからないが、力士の常として東京にいるときよりも地方場所の方が確実に体重は増えやすい。周りからもよく「また太ったんじゃない」といわれるので、最近体重を聞かれても「190kgっす」とやや自嘲ぎみの大子錦、「これで病院送りにしたの5人目っす」と申し訳なさそうに初白星を誇っていた。
平成21年7月20日
朝興貴勝越し。どちらかというと闘志を表に出すタイプではなく、場所前の稽古場でも精彩を欠いていたが、始まってみると早々の勝越しである。本場所での白星は自信にもつながり、場所に入って稽古場での動きもよくなってきた。体格に恵まれたほうとはいえ、相撲未経験者なのに2場所連続での勝越しは立派なものである。序二段で一番強いおすもうさん笹川も勝越して三段目復帰確定。朝久保、朝奄美は負越し決定。
平成21年7月21日
先発隊で名古屋に乗り込んでからはやひと月。宿舎まわりの水をたたえていた田んぼも見渡す限り青々とした稲を一面に広げている。中日を過ぎると加速度的に日を重ねていく感じがするが、3連敗であきらめ顔だった力士が2連勝して元気を取り戻したり、3連勝で鼻息の荒かった力士が2連敗して心配顔になってきたりと、表情にも今年の空模様同様日々変化がある。関取はあと5番、幕下以下は2番を残すだけである。今年に入って1番、2番、3番と負越しつづきだった朝ノ土佐4場所ぶりの勝越し。朝縄は先場所につづいての負越し決定。
平成21年7月22日
日本中を大宇宙の神秘に巻き込んだ皆既日食。名古屋でも午前11時前雲の切れ間から7割ほどの部分日食が見られ、うす暗さが増し、感動を味わうことができた。部屋に残っていたおすもうさんも何人かは日食の神秘を目にしたが、本場所中ということもあり関係ない力士にとってはまったく関係ない話で、「今日皆既日食だなぁ」というと「あっ知ってますよ」「あれうまいんですよねぇ」と、どこかの食堂か給食と間違えている輩もいたそう。ある序二段力士の実話である。
平成21年7月23日
勝越すことを「給金直す」という。序ノ口から持ち給金というのがつき、番付によって基本給があり、勝越すと給金が少しずつアップしていくから給金直すという。ただし、実際に場所毎に給金を貰えるのは関取になってからだが。それで、勝越しをきめたときに「おかげさんで給金直しました」と挨拶する。序ノ口の朝日向、入門以来初めての勝越し。初めての勝越しに舞い上がったのか「おかげさんで給金納めました」と挨拶してしまったそう。給金没収してもいいかも。
平成21年7月25日
三段目男女ノ里、朝弁慶3勝3敗からの最後の一番に勝って勝ち勝越し。場所前に膝を怪我して初日の相撲で肩を痛め、場所中風邪を引き、蕁麻疹も発症しとボロボロの体調だった朝弁慶、病気の数だけ白星を重ね、大きく更新した自己最高位での勝越しを決めた。男女ノ里も今日の勝越しで自己最高位の更新を確定。来場所は若い衆の中での一番上の番付となる。ちゃんこ長大子錦、3連敗のあと3連勝と持ち直したが、残念ながら4連勝とはならずに負越し。
平成21年7月31日
昨年から行われています夏休み相撲健康体操が8月3日(月)から8月28日(金)まで土日をのぞく15日間、国技館正面入口にて午前7時半から約30分間行われます。老若男女どなたでも無料で参加できます。相撲教習所の新弟子たちと一緒に相撲健康体操に挑戦してみましょう。15日間全勝すると何かいいことがあるようです。
平成21年8月3日
昨日8月2日日曜日、残り番だった力士も全員帰京。名古屋駅新幹線中央改札口に集合し、引率の親方立合いのもと、輸送係りの行司さんが部屋毎に一人ひとりに切符を渡して改札を入っていく。場所中に部屋に貼り出された能書き(通達紙)には12時30分集合となっているが、12時には大勢の力士が改札口周辺に集まってきている。集合時間の30分前には、というのが昔からの相撲界の常識のようなところがある。特に行司呼出し床山の兄弟子にはそういう傾向が強いので、新弟子は遅くとも45分前には行って待っておかなくてはならない。
平成21年8月4日
先日とある席で海外巡業の担当をやられた旅行会社の方と一緒になった。一般的なツアーの団体客だと集合時間に全員揃うことが稀で担当者にとっては一番苦労することらしいが、30分前には全員揃っていて「あんな楽な仕事はなかった」と話していた。新弟子検査などでも、午前10時開始となっていても30分前に全員揃うと始めてしまうこともあるから、”相撲時間”を知らない新米記者が時間通りに取材に行くと、すでに終わっていたということもたまにある。
平成21年8月5日
時間の感覚などもその一例なのかもしれないが、角界の常識は一般の非常識、一般の常識は角界の非常識ーなどという言葉をつかうときがある。300年を超える伝統をもついわば特殊社会だけに一般社会とは違う常識、通念があったりする。車に乗る場合、一般では運転席の後部座席が一番の席だが、角界では助手席の後部座席が関取や親方が座る席になる(たぶん乗り降りが一番楽だからだろう)。食事のとき、おかずをとるのも、じか箸が正当で、箸を逆さにしてとるのは非礼とまでは言わないが違和感がある。裸の商売ということもあり、夏場の部屋の中ではパンツ一枚だけというのがあたりまえである。
平成21年8月6日
土俵に上がるときは褌ひとつが正装になるので、裸に対する感覚は一般とはかなりちがったものがある。稽古後風呂のあとにチャンコとなるので、ちゃんこのときはバスタオルを巻いたままかパンツ一枚が普通である。それはお客さんがいても同じで、お客さんにとっても自然な姿であろう。取材を受けるにしても変わりはないが、テレビカメラが入るとなるとさすがにパンツ一枚はまずいようになってきている。パンツ一枚のうえにシャツステテコを着た姿は、一般から見れば下着姿かもしれないが、おすもうさんにとっては部屋着に近い感覚があるから、個室の宴席などでは乾杯のあとは背広を脱ぐ感覚で浴衣を脱いで、シャツステテコ姿で食事をすることは多々ある。
平成21年8月7日
一般の人が個室とはいえいきなりお店の中でシャツステテコ姿になったらびっくりすることであろう。でもそんな一般の人にとっても、お祭りのときだけはシャツステテコ姿や上半身裸の褌一丁もまったく違和感のない姿である。そういう意味ではおすもうさんの存在自体がお祭りのようなものなのかもしれない。今日から3日間、夏休み恒例の部屋開放わんぱく相撲教室。
平成21年8月9日
部屋開放のわんぱく相撲教室には今年も昨年同様さいたま相撲クラブの子供たちが参加している。幼稚園児から中学生まで30人近く在籍しているようで、幼稚園児もしっかりシコを踏み、立合いに当たって一生懸命相撲を取っている。こういう姿を見ると相撲界の将来にも明るい希望がもてる。国技館では全国都道府県中学生相撲選手権大会。学校の枠を取り払った県別対抗戦だが、今年で20回目を迎える。第2回の準優勝には大関琴光喜の名前も見える。
平成21年8月10日
フンドシはもともと南方系の風俗で、新田一郎著『相撲の歴史』(山川出版社)によると、環東シナ海地域でおこなわれた格闘技には「裸にフンドシ」といういでたちが共通して見られるという。6世紀初頭の和歌山の古墳から出土した「男子力士像埴輪」は裸にフンドシを巻いた姿であり、『日本書紀』にも記述がみられ、中国江南地方の習俗や南九州の「隼人相撲」も「裸にフンドシ」で行われていたそうである。また東南アジア沿岸を荒らした倭寇は、裸にフンドシに長刀といういでたちだったという。
平成21年8月13日
ふんどしの話に戻る。ふんどしにもいろいろな種類があるようだが、相撲の場合、腰周りを回して締めこむから「まわし」とか「締め込み」というようになったそうである。窪寺紘一『日本相撲大鑑』(新人物往来社)によると、普通のふんどしだったものが鎌倉時代の頃から堅く締めるようになり、江戸時代初期には麻または絹のまわしとなり、前を垂らして紋をつけるようになった。元禄(1688~1704)の頃から色絹に刺繍が豪華につけられるようになったが、だんだん長くなって取組の邪魔になったため宝暦(1751~64)以降「取りまわし」と「化粧まわし」が区別されるようになったという。
平成21年8月14日
4年前に引退した熊ノ郷が部屋に顔を見せ、久しぶりにマワシをしめて土俵に下りた。引退後はとくに運動もしてはいないそうだが、まだ24歳、体重も110kgほどと現役時代とそんなに変わらない体格である。朝日向、朝興貴の二人に10番胸を貸したが、入門間もない2人ではまだまだ顔じゃない。気持ち的にも楽に相撲を取れるのであろう、現役時代よりも相撲に余裕がありうまさも増した感じである。
平成21年8月15日
褌(ふんどし)が「まわし」になったのは、土俵ができたのと同じ頃ではなかろうか。昔の、蹴り合い、組み打ちの相撲から、人が周りを取り囲む人方屋を経て、殴る蹴ることが禁止され、土俵ができて、押し出しや寄りきり、投げ技といったルールが確立してきて、土俵の中で勝負を決しやすいように、まわしを持って寄る、組む、投げるために、しっかりと腰周りに回した「まわし」ができてきたのであろう。
平成21年8月16日
人間の重心は、おへその下辺り、いわゆる臍下丹田(せいかたんでん)と呼ばれる場所にある。そこを「まわし」で締める。ただ巻くのではなく、締めるから、腹圧が高まり意識しやすくなり、力が出るようになる。また最後に立て褌(たてみつーお尻を通している部分)にまわしの端を通して引っぱり上げて結ぶから、肛門を締めることにもなる。これほどシンプルに人間の機能を高める装置は、そうないのではないか。
平成21年8月17日
太気拳師範・天野敏氏といっても知る人ぞ知る存在かもしないが、武術界では高名な方で、月刊『秘伝』誌(BABジャパン)に毎月連載も書いておられる。平易だが内容は深く、毎号楽しみにしているページである。8月号は「最後の砦はどこにある?」と題して、足指の小さな傷の話から始まって目に見えないところが大事だと話がつづく。筋萎縮症で症状が進むと、体が動かなくなり自発呼吸ができなくなり、意思の疎通はまぶたでするようになるが、更に症状が進みまぶたも動かなくなると、最後は肛門の動きで意思の疎通を図るそうである。ヒトの存在を支える最後の砦が肛門だという。
平成21年8月18日
天野氏は語る。人は骨格筋を使って身体を動かすから、みんな此処を鍛える。ところが、生き物としてのヒトの原点はものを飲み込んで出す事。手足は摂取と排泄の可能性を広げる為のもの、食べ物を採ったり敵から逃げたりの為。脳みそも、元々考えるためにあるのじゃなくて、脳みそが出来たから考えちゃっただけ。そういう意味で脳みそも骨格筋と同じでオマケ。最後までヒトの存在を支える筋肉が肛門で、ここ無しにヒトの心も身体も語れない、と。
平成21年8月19日
再び新型インフルエンザ流行の兆しで、相撲界や野球界を騒がしているが、朝部屋に行くと、朝奄美が昨夜から熱をだしたといって寝込んでいる。ときが時だけに「ついに高砂部屋からも新型インフルか?」「土日の巡業代わりに誰がいく?」と色めいていたが、おかみさんが診療所に連れて行っての検査の結果はシロで、とりあえずはひと安心。今朝の新聞によると相撲界でも6人が感染してしまったそうである。
平成21年8月20日
BABジャパン『秘伝』誌は武道武術の探究が主だが、身体調整やからだに対する話も多い。最近、長沼敏憲氏が「腸能力を磨け!」というタイトルで連載をはじめ新型インフルエンザについても書いている。長沼氏は健康や食、生命科学の取材を重ね、免疫学と感染症対策にも造詣が深い。氏によると、新型インフル対策として報道される、マスクやうがい、手洗いなどはもっともなことだが、免疫力を高めることこそが大事なことであり、そのためには腸のはたらきが大きなカギであるという。相撲界の感染者は12人に増えたそうである。
平成21年8月21日
腸の表面には、自然免疫センサーがびっしり伸び、白血球やリンパ球、マクロファージなどの免疫細胞も数多く、二重三重の免疫システムの一大拠点になっているそうである。ただし腸内が汚れていると免疫部隊が働きにくくなり、免疫力を低下させることになるという。食べすぎと腸内のゴミ(便)がうまく排泄されないことが汚れる原因になるから、腸をきれいにするため、夜9時から翌日12時までの「断食タイム」(朝のフルーツ程度はいいらしい)と腸マッサージを長沼氏は推奨している。職業柄食いすぎが必要な相撲界には、朝飯抜きの一日2食のシステムは意味のあることかもしれない。
平成21年8月22日
天野敏氏に戻る。「稽古では様々な発見がある。いや発見する為に稽古するわけだ。では、その発見というのはどんな事か、というとそれほど大したことではなくみんな知っていることばかり」「知っているけど価値がわからなかったり、意味を取り違えてたり、当たり前すぎて意味すら考えたことが無いことに大事なことが隠れてたりする。そんな事に新しい意味づけをしていくのが稽古かもしれない」「稽古するってことは、自分の中にあるものをすべて引き出せるようにすること。・・・見えないところに眼を向けること。そこで初めて普通からそうじゃないところにいける。」そして次の文で締めくくっている。「さて、では褌を締め直して・・・んん、褌を締め直すと、締まるのか、なるほど。」
平成21年8月24日
双葉山の腰割りの姿は見事に美しい。腰が深々と割れているのに太ももやお尻の筋肉には力みがない。赤ん坊がすわっているかのように柔らかく、かつ安定感もある。腰割りは、太ももで頑張るべきではないと思ってきたが、お尻の筋肉は締めるべきだと思ってきた。ところが双葉山の写真を見ると、太ももにもお尻にも力感はなく、あくまでも自然である。それなのに不動の安定感がある。おそらくその限りなく自然な安定感は、肛門だけを締めているからではなかろうか。
今日土俵築で、明日から平塚合宿。
平成21年8月25日
湘南高砂部屋後援会からの迎えのバスで平塚合宿に出発。力士一同と、来週29日(土)に国技館で開催される朝青龍杯わんぱく相撲大会に出場する8歳から12歳までのモンゴル小学生チーム5人も参加。明日、明後日、8時から平塚市総合運動公園内土俵で朝稽古がおこなわれる。明日の稽古終了後には300人分のちゃんこが平塚市民にも振る舞われることになっている。
平成21年8月26日
平塚合宿は若松部屋時代から数えると、今年で16年目を迎えるそうである。平塚市のバックアップも大きいが、支えてくれる方たちの毎年の協力で16年もの年月を積み重ねられている。今年は久しぶりに横綱も参加して、土俵を取り囲む観客の数も例年以上の賑わい。夜は、大蔵平塚市長も顔を見せての歓迎会。力士のカラオケや抽選会、ちゃんこなどで楽しむ。横綱も気軽にサインや写真撮影に応じ交流を深める。明日、朝稽古のあと帰京。
平成21年8月28日
あす8月29日(土)午前9時より両国国技館にて朝青龍杯ちびっこ相撲大会が開催されます。小学校2年生から6年生まで一人ずつ5人のチームをつくり、横綱率いるモンゴルチームはじめ、全国から12のチームが参加して団体戦で競います。横綱土俵入りもあります。ポケモンやクレヨンしんちゃん、はるな愛もゲストで出演とのこと。ちゃんこ屋台、フリーマーケットなどもあって家族で楽しめるチャリティー相撲大会です。
平成21年8月30日
肛門の話を書いてたら、高校で生物の教師をやっている後輩からメールをもらった。発生の時細胞分裂の後陥入が起こり原口ができ、それがやがて肛門になる。脊椎動物の最初にできる器官は肛門だそう。最初に出来て、最後の砦でもある肛門。もっと目を向けてやらなければならない。もちろん、ノーマルにでのことであるが。
平成21年8月31日
9月秋場所番付発表。先場所大きく番付を更新しての自己最高位で勝ち越した朝弁慶が三段目20枚目と更に自己最高位更新。弓取の男女ノ里が三段目3枚目と勝越したら初幕下へ待ったなしの地位。ただ輝面龍が負越して三段目へ落ちたから、幕下ゼロという寂しい番付となった。序二段では入門半年の朝興貴が58枚目まで番付を上げる。朝日向、朝奄美も序二段へ番付を上げたから序ノ口力士もいなくなった。
平成21年9月1日
ロルファーで能楽師の安田登氏にお話を伺ったときに、腰割りで脚を開くことは、上半身の肩胛骨と肩の関係にも似ているという話がでた。お尻の筋肉を締めて股関節を開くのは、肩胛骨と肩をつなぐ菱形筋(りょうけいきん)を締めて胸を張るのと同じことであまり良くない。上半身を真っ直ぐするのも、腰割りで脚を開くのもリラックスして真っ直ぐする、リラックスして開くことが大切だという。今日から9月場所に向けての稽古始め。横綱も朝赤龍も土俵祭のあと部屋で汗を流す。
平成21年9月2日
ピッチング動作などでよく言われるゼロポジションという言葉がある。もともと整形外科で使われた医学用語で、肩関節で上腕骨と肩胛骨が一直線にそろうポジションで、肩関節が一番リラックスした状態をとることができ、安定した大きな力を発揮することができる。肩関節と股関節は構造的にも似ているから、股関節にもゼロポジションがあってしかるべきだと思うが股関節では使われていないようである。でも双葉山の腰割りのリラックス感をみると、股関節のゼロポジションをとっているのではと思ってしまう。
平成21年9月3日
股関節研究の第一人者である筑波大学の白木教授は、腰割りを“究極のゴルフストレッチング”としてゴルフの本で紹介している。ゴルフでも股関節の「はまる感覚」が大切で、はまる感覚を意識しやすいのが腰割りだという。腰割りで、前後左右どこにでも動きだせる股関節感覚を養い、股関節の繊細かつ大胆で巧みな動きで体を回旋させる。「はまる感覚」もゼロポジションではなかろうか。
平成21年9月5日
部屋へ稽古見学へ来られるお客様へのお願いです
本場所も近づいてきていますので、インフルエンザ対策としてマスク着用をお願いします。
マスク着用ない方は、見学をお断りいたしますので、ご理解ご協力下さいますようお願い申し上げます。
平成21年9月6日
筑波大学の白木先生に股関節のゼロポジションについて伺ったら、股関節の構造上、骨盤と大腿骨が、肩胛骨と上腕骨のように一直線になることはないから、学術用語としてはないが、生物学的な概念としてはあっておかしくない、という話であった。四足動物は、ほとんどがゼロポジションで走っているが、ライオンなどの猛獣が前脚を上げて獲物に襲いかかるときの後ろ脚の構えはまさにゼロポジションで、力士が相撲をとる構えにも共通するものがあるという。
平成21年9月7日
“ゼロポジション”という言葉は手塚一志氏の『バッティングの正体』(べースボールマガジン社)で初めて知ったが、同著によるとゼロポジションでは、肩関節周りの筋肉がすべて同じ方向(上腕骨の長軸方向)に向いて束となり、つりあいのとれた状態になっているという。改めて同著を読み返してみると、ちゃんと股関節のゼロポジションについても書いてあった。手塚氏は、股関節にはまる、入る、乗せるいわゆる股関節のぜロポジションを“Gポジション”と名づけている。
平成21年9月8日
数多い股関節周りの筋肉が、ある筋肉だけ頑張るのでなく、釣り合いがとれた状態にあるのが、股関節のゼロポジションになるのであろう。腰割りは、股関節のゼロポジションを探すための運動だといってもいいのかもしれない。太ももを鍛えるのでなく、お尻の筋肉を締めるのでなく、股関節周りのすべての筋肉を最小限だけはたらかせて、股関節が動きやすく安定する感覚を探るための腰割りなのであろう。
平成21年9月9日
妻の友人が一週間ほど前に出産した。わりと安産だったようだが、陣痛のとき「いきむ」のが難しかったという。お腹に力をいれなければならないが、顔に力を入れないよう、声を出さないよう、つかまっている腕や開いている脚も力を抜いて、と何度も指示されたらしい。からだの表面の筋肉をリラックスさせ深層筋をはたらかせる、腰割りの極意ではないか。
腰割り実践中の妻が言った「おすもうさんが出産すればじょうずかも」
平成21年9月10日
腰割をやっている方々から嬉しいご報告をいただいている。骨盤の歪みが矯正された、内臓が下がるのが改善された、足首が柔らかくなった、冷え性や生理痛が改善された、肩こり腰痛がやわらいだ、姿勢がよくなって歩くのが気持ちよくなった、・・・。股関節が刺激され柔らかくなり、全身に好循環をもたらしているのであろう。何より自分のからだに目を向けられるようになったのがいいのであろう。ただ、食欲が増すためダイエット効果はあまりないようである。
東京場所前恒例の綱打ち。
平成21年9月11日
ある女性の方は、練習なしに10キロマラソンに参加することになったが見事完走して翌日の筋肉痛もまったくなかったそう。今までの経験からは考えられないことで、腰割り効果としか思えないといっている。また別の女性は10年ぶりに相撲大会に参加して、10年前は2,3日全身筋肉痛がつづいたのに、今回はまったく筋肉痛を感じなかったという。腰割りにより無駄のないからだの使い方をできるようになったからではなかろうか。
平成21年9月13日
本所界隈は秋祭りでお御輿や祭囃子の威勢に彩られての初日。秋場所初日の土俵に最初に上がったのは今年初場所入門の朝日向。入門して約10か月、ザンバラだった髪も伸び、頭にようやく豚のしっぽほどのちょん髷がのっかった。先場所初めての勝越しで序二段に番付を上げ初日白星スタート。今場所から朝赤龍の付人もつとめることになった。
平成21年9月14日
10名の方に腰割りを3か月間つづけてもらったが、ほとんどの人が無理なくつづけられたという感想をいただいた。1日に5回でもいいという取り組みやすさと、エレベーターを待ちながらとか、歯を磨きながらとか、台所仕事をしながらとか、テレビを見ながらとか、どこでもやれる気軽さがよかったよう。ただ人前ではやりにくいという難点はあるようだが。
自己最高位更新中の朝弁慶,今場所も白星発進。
平成21年9月15日
毎日結びの一番のあと弓取式を務めている男女ノ里、3場所連続の勝越しで番付を三段目3枚目まで上げてきて、今場所も2連勝と好調でまわす弓にも勢いがある。今日は取組が早めに終わって弓取式が始めから終わりまで放映されたそうで、終わったあとお祝いメールが14件も届いていたそう。日本自動車連盟(JAF)監修の冊子『JAFMate』10月号の「未病にきくワザ」で腰割りが紹介されています。
平成21年9月17日
腰割りをはじめると相撲を観る目もいきなり玄人的になるようである。腰割りをやりだして国技館初観戦をした方から感想をいただいたが、生のぶつかり合いの迫力はもとより、力士一人ひとりのシコの踏み方、股関節の開き具合、お尻の沈み方、膝やつま先の向き、などを興味深く楽しんだそうである。相撲はまったくの素人でありながら腰割り経験者の目から観た一番の腰割りは、やはり横綱朝青龍だったそう。その横綱、万全の内容での5連勝。
平成21年9月19日
別の腰割り女性は、蹲踞に腰割りをみたと語ってくれた。蹲踞(そんきょ)とは、両膝を開いてつま先立ちでカカトの上に腰を下ろし上体をまっすぐにした姿勢で、元々は「うずくまる」という意味で相手に対して礼をとる姿勢である。スネを立てるか折りたたむかの違いだけで、股関節と膝を開く、上体をまっすぐする、重心をそろえる、という点では腰割りと同じである。一番腰が割れてきれいな蹲踞の姿勢は、やはり横綱朝青龍だったという。
クニもんで同姓の朝ノ土佐と朝久保、4連勝での勝越し。
平成21年9月20日
きれいな蹲踞、見事な腰割りはどこが違うのだろう。やはり重心線にきれいにのっているから、えも言いわれぬ美しさ安定感を感じるのであろう。能楽師でロルファーの安田登氏は「重力は整えてないと重いものになるけど、整ったときにはすごい人間の味方になる」と語っている。重心線にのって重力を味方につけている横綱朝青龍、8戦全勝での折り返し。
平成21年9月21日
序二段84枚目の朝久保、高知安芸中時代から相撲部で幕内栃煌山とチームを組んで全国大会出場の経験もある。ときに稽古場でも相撲センスのよさを垣間見せることもあり地力もそれなりについているが、やる気のなさは天下一品でいまだに序二段に甘んじている。今場所は5連勝と好調で、あと二つ勝てば6年目にしてようやくの三段目昇進となるのだが。逆にいえばまだまだ成長の可能性はあるともいえるのかも。朝ノ土佐も5連勝。
平成21年9月22日
正しい姿勢、正しい立ち方をするためには、からだに重力の軸をまっすぐに通さなければならない。ロルフィングは固まっている筋肉や癒着している筋膜をほぐしゆるめ、からだのブレーキをはずして、本来もっていた重力の軸が通る「体つき」取り戻す施術である。ロルファーの安田登氏は「重力の線を整えるだけがロルフィングです」とも語っている。
久しぶりに重力の軸が強力に通ってきた横綱10連勝。大子錦勝越し。
平成21年9月23日
安田登氏が「取り戻す」といっているように、重力の軸が通るからだを子供のころにはみんな持っている。「子供は天才」といわれる所以(ゆえん)で外国語を覚えるのも一輪車に乗れるようになるのも早い。しなやかで天才的なからだを、偏って使ったり、使わなさすぎてさびつかせたりして平凡なからだになっていく。序二段朝久保6連勝で、最後の1番に三段目昇進と序二段優勝をかける。
平成21年9月24日
今年3月場所に入門して4勝、5勝と勝ち越して序二段の58枚目まで番付を上げてきた朝興貴。今場所はさすがに家賃が高かったようで今日負けて1勝5敗の成績。上半身の強さはあるものの股関節が固くて腰が下りなく受身にまわってしまうことが多い。股割りにはいまだに苦しんでいるが、青アザもようやく消え、何とか自力でおでこがつくようにはなった。股関節をやわらかくして上半身の強さが相手に伝わるようこれからが本当の稽古の始まりである。輝面龍、手が相手の髪にはいってしまい反則負けでの負越し。
平成21年9月25日
序二段朝久保6戦全勝同士の対戦にのぞんだがあえなく敗退。序二段には4人の6戦全勝がいたが、ひとりが序ノ口の全勝とあたって敗れ、もう一人が三段目の全勝と対戦して敗れたため、朝久保に勝った相手の序二段優勝が決まった。今日の一番で、三段目昇進と序二段優勝という2つの大魚を逃してしまった。大事な一番を前にした今朝の稽古場でも序ノ口陥落が決まっている朝奄美に簡単に負ける相変わらずのやるきの無さで、これが最初で最後のチャンスに終わらなければよいが。朝縄、塙乃里、3勝3敗からの一番に勝ち勝越し。
平成21年9月26日
今日優勝が決まる可能性もあるので、日本盛から鏡割り用の樽酒が届き、優勝祝いの鯛を用意し、明日の優勝パレードの警備を本所警察にお願いにいったりと24回目の優勝にむけての準備をはじめる。慣れたこととはいえ、決まってからでは間に合わないから前もって用意しておかなければならないもの、決まってから用意してもいいものもあり、やきもきしながらのテレビ観戦である。結局白鵬の勝利で今日の優勝決定はなくなり、優勝祝いの準備は明日に持ち越し。